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寄稿

「剽窃」から正しい「引用」へ ―日吉メディアセンターの取り組み―

日吉メディアセンター 酒見 佳世


レポートを書くときには、自分の主観的な感想ではなく「調査や研究の結果分かった事実を客観的に、筋道をたててまとめて書く」1)ことが求められる。つまり、評価されるレポートに「引用」は必須であるが、その方法を間違うと「盗用」や「剽窃」となってしまう恐れがある。図書館のカウンターに相談に訪れる学生や、授業のアンケートのコメントなどを見ていると、彼らも剽窃がいけないということは理解しているが、実際にどうすれば盗用や剽窃にならないのか、その方法が今一つはっきりしない、分からないと感じているようである。なるべく早い段階で、教員からレポートの書き方を教わり、実際に書いてみて、フィードバックを受けるという形が理想的だが、全ての学生にそうした機会が用意されているわけではない。

日吉メディアセンターでは1996 年以降、情報リテラシー教育(ILP)を事業計画の中心に掲げて取り組んできた2)。ここでいう情報リテラシーとは「様々な問題解決を行うために、必要な情報がどのような情報であるかを明確にし、必要十分な情報を効率的・効果的に探し出し、入手した情報を分析・評価し、それらを倫理的に正しく活用し発信することができる能力」3)のことを指す。2013年度はのべ約2,900名の学生に対して90分間の授業・セミナーを実施したが、この中で引用や参考文献の書き方について取り上げられる時間は限られている。このため、その後のフォローは図書館内にある「スタディ・サポート」カウンターで行うことになる。

日吉図書館にある「スタディ・サポート」のカウンターにはメディアセンターのレファレンス担当職員の他に、ITCのスチューデントヘルプデスクの学生とレポートに関する様々な疑問に応える学習相談員がおり、この3者で学生の学習を総合的にサポートすることを目指している。学習相談員は、主に日吉キャンパス設置の「アカデミック・スキルズ」の授業を履修していた学部2-4年生と大学院生から構成されている4)。2008年から教養研究センターと日吉メディアセンターが連携して行ってきたプロジェクトで、カウンターに座って学生の相談を受けるだけでなく、レポートの書き方に関するセミナーや図書館内での展示など、積極的に活動を展開している。こうした学生同士の半学半教の取り組みは、日吉だけでなく理工学メディアセンターの「S-Circle」5)や湘南藤沢メディアセンターの「ライティング&リサーチコンサルタント(WRC)」6)などでも行われている。2013年の12月に初めての3地区合同のトークセッションを開催するなど、横の連携も進められている7)。

2014年度の春学期に行ったILPの授業後のアンケートで「レポートを書く上で困ることはなんですか?」という問いに対して、最も多かった答えは「資料探し」であったが、2番目に多かったのが「引用」であった。引用の適正な量とはどのくらいなのか、どこからが剽窃になるのか、自分の意見と引用の書き分け方、引用文献と参考文献の違いは何か、参考文献の書き方がわからない等々、実際的な悩みが多くあげられていた。ILPやカウンターでの相談によって解決できることもあるだろうが、それで全ての学生の疑問が解決できるわけではない。従来から日吉メディアセンターではILPの受講機会を得られない学生に対して、「情報リテラシー」習得のためのウェブチュートリアルである「KITIE」8)や「PATH」9)を自習用の教材として提供してきた。教養研究センターからも「はじめてのアカデミック・スキルズ10分講義シリーズ」10)が公開されているが、これらの教材が広く学生に認知され、活用されているとは言い難い。keio.jpや学事webシステムなどからリンクを張るなど、まずはその存在を知ってもらえる環境を整えたい。

ILPを学生のニーズに合わせて改訂していくことはもちろんのこと、カウンターでの相談や館内における展示、学生が必要なときにいつでも参照できるウェブ上の資料や教材の活用・作成を今後も着実に進めていきたい。適切なコンテンツとそこへのアクセスを整えることで、「剽窃」から正しい「引用」への橋渡し役を務められればと考えている。

参考文献
  1. 木下是雄. レポートの組み立て方. 東京,筑摩書房, 1994,269 p.(ちくま学芸文庫)
  2. 柴田由紀子, 杉真梨子. 日吉メテ?ィアセンター 2012~2013 年 情報リテラシー教育(ILP)の取り組み. MediaNet. 2013, No.20, p.35-37.
  3. 日吉メディアセンター. 「情報リテラシー」とは何か.KITIE. http://project.lib.keio.ac.jp/kitie/about/01.html,(参照2014-08-19).
  4. 間篠剛留.“学習面におけるピア・サポート活動の動向 と日吉学習相談アワーの特徴”.塾生による塾生のため の半学半教の場作り―慶應義塾て?展開されるヒ?アサホ?ートシステムの成果と今後.慶應義塾大学教養研究センター編.横浜,慶應義塾大学教養研究センター,2013, p. 37-52.
  5. 向當麻衣子. 理工学メディアセンター S-Circle活動報告 : 塾生による塾生のための相談窓口. MediaNet. 2010, No.17, p.72-73.
  6. 天笠邦一,直江健介,笠井賢紀.ライティンク&リサーチコンサルタントの実践と現在. MediaNet. 2012, No. 19, p.44-47.
  7. 梁瀬三千代. メディアセンターの取り組み ~学習相談員,S-Circle そしてライティンク&リサーチコンサルタントとの連携~ . MediaNet. 2013, No.20, p.3-10.
  8. 日吉メディアセンター.“KITIE”.http://project.lib.keio.ac.jp/kitie/,(参照2014-08-19).
  9. 日吉メディアセンター.“PATH”.http://project.lib.keio.ac.jp/PATH/,(参照2014-08-19).
  10. 教養研究センター. “はじめてのアカデミック・スキルズ10分講義シリーズ”.
    http://lib-arts.hc.keio.ac.jp/education/culture/academic.php#movies, (参照 2014-08-19)

最終更新日: 2015年9月25日

内容はここまでです。