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寄稿

湘南藤沢中等部・高等部の情報教育

湘南藤沢中・高等部 教諭:渡部 陽仁


本校は、1992年の開校当時より、情報教育を特色の1つに掲げている。開校当時は、電子メールやWWWに代表されるインターネットのサービスが世の中に普及しておらず、パソコンを所有している家庭も少ない時代だった。そのような中、本校は、いちはやく情報社会の到来を予見し、情報教育の重要性に気づき、実践を開始した。

1992年の開校から、2001年の10年目までは、情報社会の黎明期であった。1993年頃のWWWサービス開始と検索エンジンの誕生、1999年のi-modeに代表される携帯電話のインターネット接続開始、などのイベントにより、インターネット利用者が急増し、「高度情報化社会」という言葉を耳にするようになった時代である。この時期、一般の中学校・高等学校において「情報教育」と言った場合、プログラミングを中心とする「情報処理・情報技術」の教育を指した。しかし、本校では、情報社会で必要とされる力を養うため、「身の回りに溢れる情報を取捨選択し、正しく読み解く」ことを目標としたメディアリテラシー教育を実践した。本校の先進的な取り組みは、日本国内の情報教育の現場に大きな影響を与えた。2002年より実施された学習指導要領では、全国の高等学校において教科「情報」が必修化されたが、この改訂には本校の取り組みが影響している。

2002年からの2011年までの10年間は、情報通信技術の発達により「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」がコンピュータネットワークを利用できる「ユビキタス社会」が到来した時代である。ADSLや光ファイバによる家庭向け高速インターネット接続環境が整備され、一般家庭への情報通信機器の普及が急速に進んだ。また、2008年にはiPhoneが発売され、スマートフォンが世の中に広まった。このような環境の下、blogやSNSといった様々な情報発信・共有手段が発達した。これまで、情報社会において、主に「情報の受け手」であった中学生・高校生が、情報の発信者としても行動する時代となった。特に、2004年のmixi誕生、2008年のfacebook日本語サービス開始は、日本の中学生・高校生にも大きな影響を与えた。

前述の背景に対応し、この10年間に、本校の情報教育で力を入れた点は、「情報の表現」「情報の発信者としての責任」の2点である。情報通信が発達した社会では、情報を受信し、読み解くだけでなく、一人一人が情報の発信者としても活動することが求められる。その際、情報の受け手にわかりやすく、誤って解釈されないように表現する能力が必要である。また、情報の発信には責任を伴うことを生徒一人一人が自覚する必要がある。現在は、発信した情報が、短時間で世界中に拡散する時代である。自身が発信する情報が、著作権や肖像権に配慮した内容となっているか、誤ったものではないか、他人を傷つけるものではないか、社会不安を引き起こすものではないか、といったことを、常に考える必要がある。現在でも、本校の情報教育では、中等部2年生~高等部2年生の4年間をかけて、これら2点を重点的に教授している。

2012年より、本校の情報教育は「開校30年」に向けた第3段階に入った。この頃から、ウィキリークスによる機密情報漏洩事件や、「アラブの春」など、情報が社会に与える影響の大きさを示す出来事が多発するようになった。このような状況の下、社会を先導し、諸問題を解決する能力を身につけるために、情報が持つ価値、情報が社会に与える力を学習する、情報教育の重要性がますます高まっている。一方、これまでの情報教育は「パソコン教室で、情報科教員が」実施するのが通常であったが、状況が大きく変化してきた。バッテリーの持続時間が長いタブレット型端末や、低価格小型パソコンの普及により、一般教室で情報機器を用いた授業を実施できるようになった。また、情報科以外の教員のITスキルが上昇してきたため、様々な教科で情報機器を利用するようになった。情報科教員だけが情報教育を担当する時代は、終わりつつあるように筆者は感じている。

今後も、常に社会の動きを分析し、その時に必要とされる情報教育を、その時に適した方法・体制で実施していきたい。

最終更新日: 2016年9月9日

内容はここまでです。