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特集

外部データセンターを利用したBCPへの取り組み

ITC本部 大貫 亮


2011年の東日本大震災以来、事業継続の重要性を耳にする機会が増えた。震災の影響は大きく、例えば当時の計画停電では、各種機器類の停止や起動を繰り返すことが多く発生したため、その機器が提供するシステムやサービスは継続性を保つことが困難な状況となった。こういった状況下であっても組織が組織としてその役割を果たすために、あらかじめ予防策を立てておくこと、そして、陥ってしまった状況から回復する手段を持っていることが事業継続計画(BCP:Business Continuity Planning)である。

ネットワークなど情報インフラの冗長性、各種システムにおけるデータのバックアップ、キャンパス間での災害対策(DR:Disaster Recovery)については、これまでも機器やシステムの導入時には都度検討され、対策が取られてきた。今回、事業継続という観点での検討では、本学の主要キャンパスが点在する首都圏での大規模な震災を想定し、遠隔地である関西圏のデータセンター内に災害対策環境を構築することとなった。これは、バックアップデータの遠隔地保管などに留まらず、遠隔地で稼働するシステムを利用することで、組織として最低限必要な事業を継続させるためである。

このことを実現するため、今回対象としたのは教育研究系および業務系の仮想化環境基盤である。ここ数年で、各種機器やシステムが仮想化環境に集約されてきたこともあり、この仮想化環境基盤は今では多くの主要な役割を担うものとなっている。両環境ともVMware社製品で構成されているため、親和性のある同社SRM(VMware vCenter Site Recovery Manager)という製品を、データセンター内に新たに構築した仮想化環境基盤に導入した。なお、キャンパスとデータセンターを結ぶネットワークは、SINET(L2VPN)を利用している。仕組みとしては、キャンパス側サイトで稼働している仮想マシンについて、保護対象としたいものを選定する。保護対象となった仮想マシンは、ネットワーク経由で常にデータセンター側サイトと同期が取られる。有事の際は、データセンター側サイトを本番系に切り替えることで、その仮想マシンを利用することができる。もちろん、キャンパス側サイトが復旧したら元の状態に戻すことも可能である。このように、比較的簡単な考え方と操作で対応できるため、ダウンタイムも短い(筈である)。また、キャンパス側サイトで利用しているVLANをデータセンターまで延伸することで、保護対象となっている仮想マシンに対しては、IPアドレスを付け替えることなくそのまま利用できるため、操作の簡素化とダウンタイムの短縮に繋がった。

データセンター内に新たに構築した仮想化環境基盤については、通常時は本番利用されていないということもあり、コストの面からもオーバースペックとならないような機器構成とした。そのため、キャンパス側の仮想マシンから必要最低限を保護対象として選定する必要があった。また、仮想マシンとなっていないシステム(仮想化されていない機器)であっても、何らかの形で仮想化してでも保護対象とする必要のある重要なシステムは複数存在しているため、それらも含めて全体的な検討を行った上で保護対象を選定した。その結果、第一期として個人属性、第二期としてアプリケーションと項目を大きく二分した優先付けを行い、2014年3月までに、第一期分の個人属性に関するデータを利用した事業継続可能な環境を整備した。具体的には、学生、教職員、塾員、生徒・児童の業務系基幹データがそれにあたる。なお、執筆時点(2014年8月現在)では、さらに通信教育課程の学生データについても対象が加わっており、第二期分についても鋭意進行中である。

環境整備を進めていく上での優先順位の考え方としては、(1)事業継続の大前提となること、すなわち教育機関を形成する「人」の安否確認を行うための基礎となるデータ群を保持するものを最優先の第一期とし、(2)研究教育活動、各種の業務やサービスを再開するために、これらアプリケーションを提供するものを第二期とした。

幸いにも、実際にデータセンター側に切り替えて本番運用するという事態はまだ起きていないが、いざ必要となった時には当然のことながら、決められた手順に沿って、落ち着いたオペレーションが要求されるだろう。防災訓練が重要であることと同じように、今回のBCPに関するシステムを運用する上では、データセンター側サイトへの切り替えなどのシミュレーションを定期的に実施していくことも必要なことである。組織における危機管理上の取り組みとしてBCPは非常に重要であり、今回まさに「備えあれば憂いなし」といったシステムが実現されたに違いない。しかしながら、本当のところは、このシステムが日の目を見ないことを切に願うばかりである。

最終更新日: 2014年10月17日

内容はここまでです。