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提言

「アウトソーシングとインハウス」

湘南藤沢ITC所長 楠本 博之


 ITCは、研究、教育のための、情報技術環境を提供することを責務としています。大学のような学術機関にかぎらず、企業等においても、より先進的な情報技術環境は、先進的な研究教育を維持、進化させていく上で必要不可欠です。

 このような先進的な情報技術環境を、どのように設計し、開発、管理、運用していくかについては、いろいろな考えかたがあると思います。大学が使える資源には限りがありますから、それを、情報技術環境の、構築・維持にどのように使っていくかは、重要な課題です。本稿では、大学における、情報技術環境のアウトソーシングとインハウスサービスに関しての考えを紹介します。

 近年、TCO(Total Cost of Ownership)という考えかたが注目されてきました。あるサービスを提供する上で、そのサービスの全期間を通しての費用全体を考えることです。従来、初期導入にかかる機器費用だけが主として着目されれてきたのに対して、利用期間全体の保守費用や、それに付随する運用費用、さらには、廃棄の際の費用など、総合的に考えることです。この総合費用をもとに、設備投資とそれから得られる効用が検討されます。

 さらには、設備投資を、組織内で行うのではなく、外部設備、サービスの利用、いわゆるアウトソーシングの考えかたも、ひろがってきています。あるサービスを組織内でまかなう、いわゆるインハウスによる、サービス提供と、アウトソーシングによるサービス提供の、費用面での比較検討がなされ、どのようにサービスを提供するかに、大きな影響を与えるようになっています。

 いろいろな大学でも、さまざまな状況から、大学で提供しているさまざまなサービスの見直しや、外部サービスの利用が行われるようになってきています。たとえば、学生、教職員全体のメールシステムの外部サービスの利用や、ホスティングサービスを利用した、365日24時間稼動のサーバ運用、さらには、アプリケーションサービスプロバイダを用いた業務用アプリケーションの利用など、規模や程度など、さまざまです。

 慶應義塾でも、一部メールサービスや、ホスティング環境の提供、あるいはデータセンターを利用した、サーバー運用などで利用しています。しかしながら、DNSなどの、基幹ネットワークサービスや、多くの共用PCのサービス運用、そして構内の無線LAN運用など、自営設備で環境構築をしている部分が多くを占めています。

 高度化、多様化する情報技術環境を、どのように提供していくかは、戦略として重要です。単に表面的な費用だけを考えて、アウトソーシング、外部サービスの利用を増やしていくのでは、なく、インハウスサービスの利点を考慮した上で両者を利用していくことが重要です。

 インハウスによるサービス提供には、内部の技術力、ノウハウの蓄積、外部サービスの単純な利用では得られない柔軟な運用性という重要な利点があることを、忘れてはいけません。運用の業務委託という形での、アウトソーシングも、内部の技術力の維持や向上、ノウハウの蓄積などに留意しないといけません。新しい技術への対応や、より大きな流れに沿った計画立案などで、問題が出るかもしれません。

 外部サービス、技術者の利用には、サービスが不要になった場合、不必要な設備資源、人的資源を抱え込まなくでいいという利点があります。しかしながら、内部の技術者がいないことで、研究、教育の実態を充分に理解した上での計画立案、策定ができないかもしれません。安易なサービスの外部委託による、内部での、経験や知識の蓄積が行われないことによる、機会損失や弊害は、想像以上に大きなものかもしれないといことを考えつつ、判断していくことが重要です。

 将来にわたって、慶應義塾のITCが、再先端の情報技術環境を提供できる、技術者集団であれるようにと思います。

最終更新日: 2013年11月12日

内容はここまでです。